最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)285号 判決 1966年11月22日
上告人 島田一之
右訴訟代理人弁護士 山中伊佐男
被上告人 古賀健吉
右訴訟代理人弁護士 工藤耕一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山中伊佐男の上告理由について
上告人主張の「賃料につき将来の事情の変動に応じ当事者双方協議の上改訂を為すことができる」旨の約定があるからといって、借家法七条に基づく形成権としての賃料増額請求権が行使できなくなるものではない旨の原判決(その引用する一審判決。以下同じ。)の判断は正当として肯認することができる。また、被上告人が、予め上告人との協議を経ることなくなした本件賃料増額請求権の行使は適法有効であり、被上告人の増額請求賃料額は相当であるから、その請求の通りの増額の効力を生じたものであるとする原判決の判断説示は、その挙示する証拠関係、事実関係並びに本件記録に徴し、正当として肯認することができる。
賃料増額の請求がなされた場合には、従前の賃料額と適正増額賃料額との差が僅少であるなど、信義則上従前の賃料額の提供をもって債務の本旨に従った履行の提供とみられるような特別の事情があるときのほか、債務者が従前の賃料額をもって相当であると考えたとしても、従前の賃料額を提供しただけでは、履行遅滞の責を免がれるものではない(昭和三二年九月三日第三小法廷判決、民集一一巻九号一四六七頁。昭和四〇年一二月一〇日第二小法廷判決、民集一九巻九号二一一七頁参照)<省略>
以上、原判決に所論の違法はなく、趣旨は、原審の認定にそわない事実を主張し、独自の見解に立って原判決を非難するに帰し、採るを得ない。<以下省略>
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 下村三郎)
上告代理人山中伊佐男の上告理由<省略>